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肝臓の脂肪燃焼を「眠らせている」遺伝子:どうやったらその遺伝子を抑制できるのか? 肝臓の脂肪燃焼を「眠らせている」遺伝子:どうやったらその遺伝子を抑制できるのか?

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肝臓の脂肪燃焼を「眠らせている」遺伝子:どうやったらその遺伝子を抑制できるのか?

肝臓の脂肪燃焼を「眠らせている」遺伝子:どうやったらその遺伝子を抑制できるのか?

はじめに:脂肪肝は「静かな病気」

脂肪肝とは、肝臓の細胞に中性脂肪が過剰に蓄積した状態のことです。日本を含む世界中で急速に増加しており、世界人口の約30%が「代謝機能障害関連脂肪性肝疾患(MASLD)」に罹患しているとも言われています。

自覚症状がほとんどないため「静かな病気」とも呼ばれますが、放置すれば肝炎・肝硬変・肝がんへと進行するリスクがあります。しかしこれまで、有効な薬物療法の選択肢は限られていました。

そんな中、古くから知られるビタミンの一種「ナイアシン(ビタミンB3)」が、脂肪肝の新しい治療候補として注目を集めています。しかも、その作用メカニズムが分子レベルで解明されつつあるのです。



ナイアシンとは?基本知識

ナイアシンはビタミンB群の一つで、水溶性ビタミンです。エネルギー代謝や脂質代謝に欠かせない補酵素「NAD⁺(ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド)」の前駆体でもあり、全身のさまざまな代謝反応に関わっています。

古くから高脂血症(コレステロール・中性脂肪の異常)の治療薬としても使われてきた歴史があり、FDAをはじめ各国で承認されている安全性の確立した栄養素・医薬品です。

食事では以下の食品に豊富に含まれています:

  • 魚介類:カツオ、マグロ、マイワシ
  • 肉類:豚肉(特にレバー)、鶏むね肉
  • きのこ類:まいたけ、しいたけ、エリンギ
  • 豆・ナッツ類:ピーナッツ、落花生

最新研究:ナイアシンが脂肪肝を改善する新メカニズム

miR-93とは何か?

韓国のUNIST(蔚山科学技術院)、プサン国立大学、蔚山大学病院の研究チームが発表した研究が注目されています(Metabolism: Clinical and Experimental, 2025年)。この研究で主役となったのが「マイクロRNA-93(miR-93)」という分子です。

マイクロRNA(miRNA)は細胞内に存在する、長さわずか20〜25塩基の小さなRNA分子です。大きさは非常に小さいですが、遺伝子の発現を制御する「分子スイッチ」として、体内の多くの生物学的プロセスに強力な影響を与えます。

研究チームはMASLD患者の肝臓組織と、肥満モデルマウスの肝臓を詳しく解析しました。その結果、脂肪肝の人では肝細胞内のmiR-93が著しく高いことが判明しました。

miR-93がなぜ悪いのか?SIRT1への影響

miR-93が上昇すると何が起こるのでしょうか。研究チームはその悪影響の「標的」を突き止めました。それが「SIRT1(サーチュイン1)」という遺伝子です。

SIRT1は「長寿遺伝子」とも呼ばれ、肝臓での脂肪酸酸化(脂肪燃焼)、ミトコンドリア機能の維持、インスリン感受性の調整などに不可欠なタンパク質です。miR-93はこのSIRT1の働きを抑制してしまいます。

具体的なメカニズムはこうです:

miR-93 上昇 → SIRT1 抑制 → LKB1/AMPKシグナル軸の障害 → 脂肪酸酸化(燃焼)の低下・ミトコンドリア機能不全 → 肝臓への脂肪蓄積

研究チームは、遺伝子編集技術を用いてmiR-93を産生できないノックアウトマウスを作成し、高脂肪・高フルクトース食を与える実験を行いました。その結果、miR-93ノックアウトマウスでは、肝臓への脂肪蓄積が顕著に減少し、インスリン感受性が改善し、肝機能全体が向上することが確認されました。つまり、miR-93の抑制が脂肪肝の予防・治療に有効であると示されたのです。

なぜナイアシンなのか?150種類の薬のスクリーニング

次に研究チームが行ったのは、miR-93を抑制できる薬剤の探索です。FDA承認済みの150種類の薬を対象にした大規模スクリーニングを実施した結果、最も有効な候補として浮かび上がったのがナイアシン(ビタミンB3)でした。

ナイアシンを投与したマウスでは、肝臓のmiR-93レベルが劇的に低下し、同時にSIRT1の活性が大幅に上昇しました。その結果、乱れていた脂質代謝経路が正常化し、肝臓における脂質のバランスが回復したのです。

研究チームはこの成果について「この研究はMASLDの分子的起源を正確に解明し、すでに承認されたビタミン化合物をこの経路の調節に活用できる可能性を示した。臨床的な意義が非常に高い」とコメントしています。


ナイアシンの直接的な抗炎症・抗酸化作用

ナイアシンの肝臓への恩恵は、miR-93/SIRT1軸の調節だけではありません。それ以前の研究でも、ナイアシンが肝細胞に対して直接的な保護作用を持つことが示されています。

Ganjiら(Metabolism, 2015年)は、ヒト肝細胞を用いた培養実験において、ナイアシンが以下の作用を持つことを報告しました:

  • 脂肪蓄積の抑制:パルミチン酸(飽和脂肪酸)によって誘発された肝細胞への脂肪蓄積を45〜62%抑制
  • 酸化ストレスの軽減:NADPH酸化酵素活性を阻害し、活性酸素(ROS)の産生を減少
  • 炎症性サイトカインの抑制:炎症の指標となるIL-8(インターロイキン-8)の分泌を低下

これらの効果は、ナイアシンがDGAT2(ジアシルグリセロールアシルトランスフェラーゼ2)という酵素の発現を抑制することで脂肪合成を抑えるとともに、酸化ストレスを下げることで炎症の連鎖を断ち切ることによるものと考えられています。


マイクロRNA標的治療の未来

今回の研究は、miR-93を治療ターゲットとした新しいアプローチの可能性も開いています。

医学界では、特定のマイクロRNAを阻害する「アンチセンス核酸」や合成核酸を用いた治療法の開発も進んでいます。miR-33bやmiR-93などを標的とするMASH(代謝機能障害関連脂肪肝炎)治療薬の研究も進行中です。

また研究チームは、「ナイアシンはmiRNAを標的とした併用療法の候補として非常に有望であり、代謝異常・炎症・線維化など疾患の複数の側面に同時に作用できる可能性がある」と述べており、将来的な臨床試験への期待が高まっています。


日常生活でのナイアシン摂取:正しいアプローチ

ナイアシンの脂肪肝への有益な効果は科学的に示されつつありますが、やみくもにサプリメントで大量摂取するのは危険です。高用量のナイアシン(特にニコチン酸型)は、皮膚のほてり(フラッシング)、消化器症状、そして皮肉なことに肝機能障害を引き起こすことが知られています。

食事からの自然な摂取が基本

日常的な食事からバランスよくナイアシンを摂取することが最も安全で合理的なアプローチです。日本人のナイアシンの推奨量は成人男性で15〜17mgNE/日、成人女性で12〜13mgNE/日(「NE」はナイアシン当量)です。

ナイアシンを豊富に含む食品を意識的に取り入れながら、次のような生活習慣の改善を組み合わせることが重要です:

  1. アルコールの制限:アルコールは肝臓への直接的な負担を増やします
  2. 糖質・脂質の過剰摂取を控える:特に果糖(フルクトース)の過剰摂取はMASLDの悪化因子です
  3. 適度な有酸素運動:週150分以上の中等度運動が肝臓の脂肪燃焼を促進します
  4. 体重の適正化:体重を5〜10%減らすだけで肝臓の脂肪量が有意に減少することが知られています

サプリメントを検討する場合

医師の指導のもとで治療目的にナイアシンを補足する場合は、ニコチンアミド(ナイアシンアミド)型の方が副作用が少ないとされています。いずれにしても、必ずかかりつけ医または専門医にご相談の上で使用してください。特に肝疾患、糖尿病、痛風の既往がある方は特別な注意が必要です。


まとめ

ナイアシン(ビタミンB3)は、長年にわたり脂質異常症の治療に用いられてきた実績ある栄養素です。近年の研究により、その脂肪肝への作用メカニズムが分子レベルで解明されてきました。

  • miR-93の発現抑制を通じたSIRT1の活性化と脂肪燃焼促進
  • 直接的な抗炎症・抗酸化作用(IL-8抑制、ROS産生低下)
  • 脂肪合成酵素(DGAT2)の抑制による肝細胞への脂肪蓄積の防止

これらの多面的な作用が脂肪肝の予防・改善に寄与する可能性があります。ただし現時点では、ナイアシンの脂肪肝治療への有効性を確立するための大規模な臨床試験はまだ進行中です。食事やサプリメントへの応用は、専門家の指導のもとで慎重に行うことが大切です。

今後の臨床研究の進展により、ナイアシンが脂肪肝治療の新しい選択肢として確立される日が来ることが期待されます。


参考論文

  1. Lee et al. (2025) “Hepatic miR-93 promotes the pathogenesis of metabolic dysfunction-associated steatotic liver disease by suppressing SIRT1” Metabolism: Clinical and Experimental, 2025; doi: 10.1016/j.metabol.2025.00135 PMID: 40228656
  1. Ganji SH, Kashyap ML, Kamanna VS (2015) “Niacin inhibits fat accumulation, oxidative stress, and inflammatory cytokine IL-8 in cultured hepatocytes: Impact on non-alcoholic fatty liver disease” Metabolism: Clinical and Experimental, 2015; 64(8): 982–990 PMID: 26024755
  1. Younossi ZM, Golabi P, Paik JM, et al. (2023) “The global epidemiology of nonalcoholic fatty liver disease (NAFLD) and nonalcoholic steatohepatitis (NASH): a systematic review” Hepatology, 2023; 77: 1335–1347
  1. Zou Z, Liu X, Yu J, et al. (2024) “Nuclear miR-204-3p mitigates metabolic dysfunction-associated steatotic liver disease in mice” Journal of Hepatology, 2024; 80(6): 834–845 PMID: 38331323
  1. Felicianna, Lo EKK, Chen C, et al. (2025) “Alpha-aminobutyric acid ameliorates diet-induced MASLD progression in mice via enhancing AMPK/SIRT1 pathway and modulating the gut-liver axis” Journal of Nutritional Biochemistry, 2025; 140: 109885 PMID: 40015656

本記事は医学的な情報提供を目的としており、特定の疾患の診断・治療を目的とするものではありません。症状や治療についてはかかりつけの医師・専門医にご相談ください。


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